『メンタリング 』- 会社の中の発達支援関係 - キャシークラム著 📚

概要

キャシー・クラムの出現によって、メンタリング研究・キャリア発達研究は大きな前進をみた。クラムは本書の中で、メンタリングの2つの機能「キャリア機能」と「心理・社会的機能」を同定し、それぞれの下位機能の存在を提言、また、メンタリングに基づく発達支援関係の有益性、代替的関係としてのピア関係の重要性を指摘、面接によるデータ収集、それに基づく仮説の構築・検討・修正・洗練という幾重にも及ぶ手続きを経、精査された上での理論を開陳する。「クラム以降」メンタリングの研究領域では膨大な数の実証研究が蓄積されることになった。本書はその嚆矢となった名著である。

どんな本か

メンタリングの研究としては古典/元祖にあたるような位置付けであるぽくて、メンタリングをテーマにしている Web サイトのあちこちで引用もされている。2021 の現在での研究書としての評価は、専門ではないので 確かなことは分からないが、学びになるポイントは現在でも多々あると思う

いつ/なぜ 読んだか

現在の会社では技術職として働いているが、キャリアを積むにしたがって後輩の研修や同僚の評価など "マネジメント" に関わるに機会が増えた。マネジメントに携わると、それまで技術職としてのインプットだけでは立ち向かえないなと危機感を覚えて、あれやこれやと書籍を読み漁ったのだが、その中の一冊だった。

自分の中では漠然と「メンタリング」についての概念はあった。大学での寮生活 (先輩後輩の関係がかっちり決まっている集団だった) を経た経験や、会社に入ってすぐに面倒をみ食べてくれた上司の存在などから 学び得たものにベースがあった。

言語化を試みると曖昧模糊と捉え所がなかったのを、専門の用語と概念もって抽象化して捉えるきっかけを与えてくれた一冊になるだろう。

何を得たか

メンタリングをキャリア的機能と心理・社会的に機能に分類する考えは、自分の経験にのみ頼っていたメンタリングの概念を抽象化・一般化・ブレイクダウンして理解する道具になった。また、自分のキャリアの発達と周囲の人々の関係性をメンタリングの視点から論じる武器にもななった。

キャリア的機能 心理社会的機能
スポンサーシップ 役割モデリング
推薦と可視性 需要と確認
コーチン カウンセリング
保護 交友
やりがいのある仕事の割り当て

自分、あるいは、同僚が「メンターになった」時に、自らのふるまいがどのような <機能> を果たしたか? を問いかけてみることで、自らのメンタリングを精緻化して考えることができるだろう。

また、自分の内的キャリアを見据える際に、自分の成長に寄与してくれた周囲の人々がどんな <機能> でもって支えてくれたかを考えてみると 一歩踏み込んだ省察・リフレクションになるかとも思う。

何は得られないか

研究書であるので、メンターとしての実践知を望みたい人には向かないかな

どのようにメンタリングを行うのが好ましいか 、どのようにふるまえばメンタリングが成功するか ... という指南はしてくれない。例えば、メンター/メンティーとで面談する際に 好ましいコミュニケーション方法 (傾聴、オウム返し ... ) はどんなものかといった目的であれば別の本を当たるのがよいかと思う

組織にメンタリングを導入する、文化として定着させていくには というテーマであったりも別の本がよいかなと思う

その他の感想

現在は古本でしか手に入らないようで、Amazon だと 1万円を超えるプレミアム価格になってしまっている。もう少し安価だと、同僚にも薦めたいな〜となるのだが、厳しい値段である。

私が買った時も 5000円くらいで少し高かった。

企業の本棚に一冊あると良いかなという本